釣った魚をこれなんて魚?と問うFacebookの投稿はよく見かけるが、見知らぬ魚への解答に何人かの人が「タモリ」と答えていたのに驚いた。どうやら西日本で釣れる標準和名セトダイという魚であるらしい。瀬戸内海沿岸では「タモリ」とだけでなく「イイトモ」とも呼ばれているそうだ。
投稿された写真を見て、カゴカキダイ? コショウダイの幼魚がこんな感じじゃなかったかな?と思ったのだが、すぐに「タモリ」という解答が複数寄せられた。魚図鑑をよく眺める方だが、タモリという魚は見た覚えがなかった。調べてみると、セトダイというイサキ科ヒゲダイ属の魚で刺身、煮付け、塩焼きで美味とある。瀬戸内海でよく獲れるので瀬戸鯛ってことらしい。それじゃどうして地方名タモリ?と調べてみると、その理由が面白かった。元々は「トモノリ」と呼ばれていたのが縮んで「タモリ」。トモノリは平知盛のこと。
壇ノ浦の戦いで平家が滅びるときに碇を担いで「見るべき程の事をば見つ。今はただ自害せん」と入水した平家方では数少ない勇猛な武将である。セトダイの黒、白、黄の体色が鎧武者のように見えることから平知盛の生まれ変わりとされたようだ。ヘイケガニもそうだが、瀬戸内海の漁師さんは平家贔屓なのである。
チカメキントキは、瀬戸内海の一部ではヘイケダイと呼ばれている。源平合戦時の旗指物は源氏は白で平氏は赤。赤く派手な姿が平家の武将を連想させるってことだろうか。キンメダイも一部地方でカゲキヨと呼ばれているそうだ。平家がらみのカゲキヨといえば、歌舞伎に出てくる落ち武者、悪七兵衛景清である。これも赤だから平家方の武将の名前が付けられた? アツモリウオなんてのもいた。瀬戸内海ではなく北方の魚なのだが、名前の由来は平敦盛。赤っぽいトクビレ科ツノシャチウオ属の魚だ。同属のクマガイウオは体色が白っぽい。一ノ谷の戦いで敦盛を討ったのが熊谷直実である。
もう1つ、ちょっぴりホラーな平家がらみの魚の名を紹介。標準和名キダイはレンコダイとも呼ばれるが、キダイに関しては、「波の下にも都あり」と安徳天皇を抱いて壇ノ浦に身を投げた二位の尼ほか女官たちが帝を竜宮に導くためにあでやかな小ダイに姿を変えたという伝承が残っている。レンコダイを漢字に直すと「連子鯛」。子ってもしかして安徳天皇のこと!?と怖いことを考えてしまう。たくさん連なって釣れる小ダイだから「連子(小)鯛」という説が有力なんだけどねw
著者: へた釣り