中深場の名人さんたちの中にはアカムツに比べるとクロムツなんてという人もいた。確かにアカムツの方が脂の味が上品で頭一つ上という印象はへた釣りも持っていたが稲取沖アカムツを食べてその差に気づく。アカムツ&クロムツの炙り刺し食べ比べるとクロムツが存在感失うほどに……。
稲取沖第1投で城ケ島以西で“アレ”が釣れない呪い解呪成功で釣れた魚を釣った日含めて4日間寝かせてからいただく。まずはユメカサゴと季節の野菜の揚げ出し。ユメカサゴは片栗粉を薄くまぶして空揚げに。季節のお野菜は素揚げにする。お出汁はアカムツの頭&中骨から取った極上品。大根おろしと生姜をすり下ろした物をお出汁に溶いてひと煮立ちさせたらたっぷりかける。ユメカサゴは表面カリッと中はふんわり。出汁がしみて美味さブーストな前菜的な一皿。
お次が本日のメインディッシュの稲取アカムツ&クロムツ炙り刺し。でっぷりメタボ体型のアカムツはさくにしても十分すぎるほどの厚みがある。バーナーで炙り始めるとうわっと驚きの声が漏れちゃうほどに溶け出した脂が皮の表面に溢れだし、お皿に流れ落ち始める。脂の香りが部屋中に広がって食欲をかき立てる。同じ海域にいるクロムツも過去最高の脂の乗りかもと期待したがクロムツの方はアカムツほどには脂を蓄えていなかった。この時点で勝負あった感じ。
アカムツのことを「白身のトロ」と呼ぶことがあり、これまで外房や東京湾口で釣ったアカムツでその呼び方通りの脂の乗りだということは知っていた。稲取アカムツは全身「白身の大トロ」だった。溶け出した脂が一切れずつの表面をテカテカと光らせるようにコーティングしている。口に入れると上品な甘みのある脂の旨みが大暴れする感じ。河津産のワサビとの相性も抜群だ。35センチのアカムツの半身をいただいたが食べ進めると口の中がアカムツの脂で満たされる。濃密すぎて胸やけしそうなほどに横暴な旨みの脂を、ワサビとラムネの後口の日本酒、文佳人 夏純吟でリセットしながら食べる。食べ比べるはずだったクロムツの炙り刺しは存在感を完全に失い、脇役にもなれない。一緒に食べるべきではなかった。アカムツのお刺身はまだ3日分ある。クロムツはアカムツを食べ終わってから食べることにする。
〆はアカムツのお出汁で作ったにゅうめん。薬味はネギだけのシンプルなお椀だが、脂たっぷりのアカムツから取ったお出汁には細かい脂が表面を覆うように浮いており、具なしでも十分すぎるほどに美味い。素麺は三輪そうめん松田の白髭。関西育ちのへた釣りは素麺は安物を買うと後悔することをよく知っている。日持ちするものなのでこの素麺を年中常備していたりする。
著者: へた釣り