出会いがしらで遭ったらまず助からないと言われている。ヒグマである。山菜を獲りに山奥に入り込んでいるのでなければ、よほどのことがなければ至近距離でばったりなんてことはないと思うのだが…。念のために「熊撃退スプレー」を買おうかな? でも、これでヒグマに勝てるかな?
北海道にはヒグマって普通にいるんだなって体験をいくつか。まずはヤマメやオショロコマを釣りに行った忠類川の支流。舗装された道から脇道に入ろうとすると看板に「○月×日にヒグマが目撃されました」。北海道の師匠は「だいぶ日にちが経ってるから」と車のクラクションを何度もならしながら川辺へと入っていた。その日のへた釣りの格好は、背中にでっかい熊避け鈴、肩からは大音量で鳴りっぱなしのラジオをたすき掛け。繊細な渓流釣りとは思えない騒がしさ。それでも釣り掘並みに釣れたから北海道はすごい。
二度目のヒグマ体験は、釧路近くのダムにニジマスを釣りに行ったとき。北海道の師匠2号に案内してもらった。ダムから少しずつ川を下りながらの釣り。人里離れた場所ではあるが、人造物があり、川沿いには人が歩く用の道がある。前を歩く北海道の師匠2号が「うわっ!!」と立ち止まった。こちらを振り返り「見ない方がいいですよ」。そう言われると見たくなる。道の真ん中に落ちていたのは……食いちぎられた鹿の脚。ちょうどカットされていない生ハムの状態。「腐ってないから結構最近のですよ」と冷静に解説されても……である。それでも、ちゃんと予定通り釣りはした。
三度目はもうどこまで本当なのか分からない話。知床の幌別河口にカラフトマスを釣りに行ったとき、地元の釣り人から「昨日、あそこにヒグマがいたよ」と聞く。指差したのはほんの30メートルほど先の崖。「逃げたんですか?」と聞くと、「この辺のクマは人間に慣れてるからすぐ近くに来ても、よっ!って挨拶しとけば大丈夫」。クマの話になる前に東京から来たと話してあったので、からかわれたんだとは思うが……知床のヒグマはちゃんと挨拶をしない人間に襲いかってくる、礼儀にうるさいヤンキー先輩のような習性があるらしい。
ヒグマを見たらどうするか、一応レクチャーは受けている。騒がず、あせらず、目をそらさず、後ずさってその場を立ち去るしかないそうである。それでもヒグマが攻撃してきたら、何をやっても無駄なので諦めるしかないらしい。諦めろと言われても生き死にがかかっているわけでそう簡単に諦められるものではない。「熊撃退スプレー BearAttack」くらいは持っていこうかなぁっと。本当に効き目があるのかどうか…これでヒグマを撃退したという体験談は見つからなかった。
著者: へた釣り