日本人が縁起のよい魚としているマダイ。「人は武士、柱はヒノキ、魚は鯛」といわれ、魚の中では別格扱い。エビスさんが脇に抱えている魚もマダイだし、お頭付きのタイの焼き物を「八喜鯛」と呼び祝いの席で食べる習慣が関西にはあった。タイが縁起物になったのは太公望のおかげ?
タイは「めでたい」に通じるから縁起物として喜ばれる。昆布を「よろこ(ん)ぶ」、黒豆を「マメに(働く)」なんて具合にお節料理や結納品によくある語呂合わせのおかげで、縁起のよい魚になったという話はよく知られている。しかし、マダイが縁起のよい魚であるという由来を周商(殷)革命、つまり紀元前11世紀ごろにまで遡る説もあるので紹介する。
日本では釣り好きをさす太公望(余談だが中国では釣りが下手な人をさす)。渭水のほとりでまっすぐの釣り針で釣りをし続けて、周王朝の始祖となった文王を待ったという伝説がある周の軍師だ。呂尚という名で遊牧民族である羌族の出身であったとされている。周商革命で商を滅ぼした功績により、斉の国に封じられた。斉の国は現在の山東省の辺り。渤海では当然マダイが釣れるのだが、鯛という文字が「魚」+「周」であったことから縁起のよい魚としたようである。
縁起物となったマダイは中国で節供料理に使われるようになり、それが日本にも伝わってマダイは縁起がよい魚として定着したと考えると、なんとも壮大で心地よい。なんといっても釣り人の代名詞である太公望が伝承の一部を担っているのがうれしい。ただし。タイが魚の代表になったせいで現在の釣り人を悩ませていることも。「××ダイ」と呼ばれている魚が多すぎる。日本近海で釣れるマダイの仲間は、マダイ、チダイ、キダイ、クロダイ、ヘダイなどわずか14種だけである。
著者: へた釣り