タクシーに乗ると、運転手さんが釣り好きだったらしく釣りの話に。久里浜出身だという運転手さんは「僕が子供のときはサンマが入れ食いだったよ」。秋の味覚のサンマ…北海道だとか東北でしか獲れないと思っていたのだが、東京湾で昔はサンマが釣れた…今でも釣れるって本当なの?
東京のサンマですぐ思い出すのが落語「目黒のさんま」。普段贅沢な料理ばかり食べていたお殿様が目黒まで遠乗りに出かける。この殿さまの供の者が実にうっかりしたヤツで弁当を忘れて主君にひもじい思いをさせるという切腹ものの失態を。そんなときにサンマを焼いた香ばしい匂いがすきっ腹の殿様の食欲中枢を猛烈に刺激する。サンマは当時は庶民が食べる下衆な魚。供の「殿の肥えたお口にはとうてい合いませぬ」という制止を振り切り食べてみると、これが絶品。以来、サンマの虜となった殿様の滑稽噺である。江戸時代にサンマが大衆魚よりさらに下の扱いである下衆魚であったとすれば、遠地より鮮度を保って輸送したとは考えられない。東京湾で獲れて芝浜(港区)の魚市場で水揚げされたものという説が有力だ。
東京湾にサンマがいるの? と思って調べてみると、1982年に湾奥に位置する有明~月島近辺に大群が押し寄せたという記録があった。その資料の中に東京湾では漁業に対象にはなっていないが4~5月くらいに小群の回遊があると書かれている。タクシーの運転手さんは60代半ばに見えたので、子供のころは50年近く前。1960年くらいまでは東京湾でもサンマが入れ食いできたってことか? 現在でも相模湾ではサンマの漁獲があることも確認できた。夏の濁り潮が入り始めたころということは、やはり4月~5月だろうか、横須賀の長井港や佐島港に水揚げされる。ただし、春先のサンマは脂が乗っておらず痩せているのでお味の方は……今一つらしい。
昔は入れ食いだった、相模湾では漁獲がある、例年小群の回遊は確認されている……とすると、釣ったという人がいるはずと思い探してみると、なんてことはない本牧海釣り施設で釣れることがあるらしい。時期は5月中旬くらいが有力で、海面直下をサビキで狙うというので、サヨリに似た釣り方になるんだと思われる。釣れるサイズは30センチ前後のようで、意外といい引きをするらしい。ただし、狙って釣れるほどには釣れるようではなく、シコイワシを狙うついでに運がよければ釣れるかもって以上に期待してはダメみたいだ。
著者: へた釣り