へた釣り家ではパパは天才ということになっている。正確にはパパは天才と思われるように小さな頃から狂育した。何でも知ってる天才のパパに挑んできたのが子供2号。「パパって魚の漢字書けるよね?」。どうやら学校で習ったらしい。天才なので受けて立つしかないが内心ドキドキ。
まぁ、そこは小学4年生なので、問題はこんな感じ。□に漢字を書きなさいってこと。問題を見てパパの威厳を保てそうだったのでホッとする。答えは、鰯、鯖、鯵。
書き取りだけでなく問題はこう続く。「では、どうしてこんな漢字になったでしょう?」
鰯=ウロコがはがれやすくすぐに弱ってしまう魚だから、鯖=青魚の代表で背中が青く見えるから、鯵=??? どうして参なんだ? 魚名の由来は美味しいから「味」→アジなのは知ってるが…天才パパ、ピ~ンチ!!。
ここで子供2号からヒント。「参は昔の『三』なんだよ」。三と聞いても???である。「パパ、分からないんだぁ~♪」としたり顔の子供2号によれば「アジは3月から獲れ始めるから魚へんに三なんだよ」。へぇ~と思ったが、漢字の起源としてなんだか違和感があった(へた釣りは白川静先生の本が大好きな)ので調べてみると、どうやらこの説明は間違いっぽい。鯵はもともと魚へんに操や躁、燥などの右(旁)部が組み合わされた漢字が正しかったらしく、中国語でアジを指す「ソウ」の表音文字であったというのが正解らしい。ソウという文字を簡略化していくうちに鰺→鯵となったみたいだ。学校の先生の教えることなんて嘘だらけってことだ。
こうなると、魚へんクイズの再戦を挑まれても大丈夫なように、そして間違えた知識を子供2号に覚えさせないように、下調べ(笑)
まずはその形状が文字になっているってことで鮃(ヒラメ)、鰈(カレイ)。ヒラメは平べったい魚だから平という字と組み合わせると覚えていい。メは魚を、意味する音(ヤマメ、アイナメなど)なので「平たい魚(メ)」でヒラメ。鰈の葉か草かんむりを除いた旁にも薄くて平らなという意味がある。カレイという名自体はカレイが元々エイの仲間と考えられていた名残りで、「加良衣比(カラエイ)」と呼ばれていたのが転じてカレイとなったようだ。鱒(マス)という字は、細長い酒壺の形をしたという意味の尊を魚へんと組み合わせたもの。鱸(スズキ)はウロコが黒っぽく見えることで黒いという意味がある盧が使われている。
旬を表わす魚へんの漢字といえば鰆、鰍、鮗。それぞれ春:サワラ、秋:カジカ、冬:コノシロ。旬を迎える季節と魚へんの組み合わせ。カジカとコノシロは旬の季節が逆じゃない?という気もするが……となると気になるのは魚へんに夏と書くと、ワカシのことらしい。さらに、鰍と書いてイナダと読むこともあるそうだ。ワカシ→イナダとくればブリ。ブリの字は鰤。師走(12月)に旬を迎えるからこの字になったと考えたい。年越し魚、関東ではサケだが関西ではブリが一般的。年末年始に馴染みの魚であったわけだ。
昔の人は海中の魚の様子をよく観察してたんだなぁと驚く漢字もある。例えば鯒(コチ)。餌が近付くと捕食のために踊るようにして跳び付くことから旁に甬が当てられた。鮴という漢字は川ではゴリ、海ではメバルを表わす漢字。ゴリは川底の岩の隙間でゆっくり休んでいるように見えるし、メバルも海中で少し上を向いてホバリングしている姿が休んでいるように見えるってことだろう。いずれも日本で作られた国字なので、昔の漁師さんは漢字の成立に貢献してたってことか? 雷(=神)が鳴ると獲れるようになる鰰(ハタハタ)、雪が降り始めるとタチが入る鱈(タラ)あたりも漁師さんの知恵っぽい。
著者: へた釣り