へた釣りの昼飯は決まって、会社の近くの立ち食いそばで、ゴボウ天そばと梅干しのおにぎり。釣り好きのマスターから「釣りにも梅干しのおにぎり持ってくの?」とからかわれた。「梅干し食べるとボウズ」という迷信というかジンクスを聞くのはこれで三度目。日本全国で信じられてる?
最初に「梅干しのおにぎりを持っていくとボウズ」という話を聞いたのは妻1号から。釣りに行くときの朝飯におにぎりを握ってくれるのだが、「梅干しはダメだよね?」といきなり聞かれて、「何のこっちゃ」と思ったのを覚えている。北海道の師匠が釣りに梅のおにぎりはダメと言っていたせいらしい。北海道ではこのジンクスが信じられているらしい。
次に聞いたのは和歌山の白浜の民宿で。「日の出前から釣りに行きたいので朝ごはんにおにぎりを用意してほしい」とお願いすると、「釣りなら梅干しはダメですね」と真顔で言われた。和歌山といえば紀州梅の産地なわけで、梅干しのおにぎりを勧められるのならともなく、そんな土地でも梅干しだとボウズという迷信が罷り通っているのだと驚いた。
そして、本日のきぬそばで。東京湾でも梅干しは釣りに持って行ってはダメってことみたいだ。ここまで全国区で広がっている迷信となると、なんらかの起源があるかもと調べてみると、江戸時代のころから広まったものらしい。菅原道真が大宰府へ左遷されたときに詠んだ歌、「東風(こち)吹かば/匂い起こせよ/梅の花/主なしとて/春な忘れそ」を起源とする。
強い東風(大ならいと呼ぶらしい)は漁にとって不吉な風であったらしく、東風が吹くと不漁になるという漁師の経験則と、天変地異や飛梅伝説を生んだ菅原道真の恨みの歌が、どこでどうしたはずみにか結びついて「梅(梅干し)は不漁をもたらす」と信じられるようになったようだ。道真公の歌の東風は「東から吹く春の柔らかい風」と解釈するのが本来らしいんだけど……。梅干しは好物だが、不漁の元と言われているものをわざわざ持っていく必要も感じないので……へた釣りも道真公の呪いを信じてる?
著者: へた釣り